異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
『ほう、なかなか骨がある女もおるようだな』
アスカ妃は片手で半月刀を振り下ろしたまま、妖艶な笑みを浮かべる。攻撃の最中とは思えないほど涼しげで、まるで世間話のように軽く言葉を紡ぐ。
だけど、ロゼッタさんは両手で戦斧を持ち両足を踏ん張ってる。彼女の足がわずかにでも地面のめり込むほど、両腕の筋肉には血管が浮き出るほど。どれだけの負荷――力が込められているんだろう。
普段から鍛え上げた生粋の戦士であるロゼッタさんさえ、皇妃の片手の一撃を両腕で受け止めるが精一杯だなんて。 アスカ妃はどれだけ強いんだろう。
もしもあたしだったら……たとえ懐妊のことがなくても、あの斬撃はきっと受けとめられない。避けるだけで一杯一杯だと思う。
けど、今はぼうっと見てるだけじゃいけない。あたしはエークから降りようとしたけど、何故かバルドに阻まれ叶わない。
「ちょっと、バルド離して! お母様を止めないと」
「その必要はない」
バルドはあたしを離さないまま、スッとエークを前に進める。
そして、自分の帯びていた剣をスラリと抜いた。
『母上、あなたが我が妃を斬る意志がおありならば――』
スッとバルドの黄金の瞳が細められ、猛禽類のような光が鋭さを増した。
『私は、あなたを斬る』
母へ向けて宣言したバルドの赤いマントが、バサリと風にたなびき翻った。