異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



『面白い』


アスカ妃は振り下ろした半月刀をもう一度持ち上げる。そして、片手でエークを操ると一瞬で姿が消えた。


(えっ!?)


急いで彼女を捜そうとした刹那――すぐ間近で剣戟(けんげき)の音が響き渡った。


「バルド!」

「動くな!」


バルドの叱責でとっさに身を縮める。それでもあたしの目の前で最愛のひととその母親の刃が交わっているなんて。信じられないし、信じたくなかった。


バルドが今使っている剣は、旅の間に愛用していたような幅広く頑丈な造りじゃない。儀式にも使用する装飾が付いた儀礼用だから、とても実用的とは言い難いけど。彼はそれを承知の上で実母の挑発に乗ったんだ。


母の半月刀の斬撃を跳ね返したバルドは、エークに乗ったまま踏み込んで攻撃を繰り出す。アスカ妃はそれを刃の反りで受け流すと、力任せに反撃してきた。


バルドはわざと刃先を当てて微かに母の太刀筋を変える。そして、一旦エークを下げるとアスカ妃の半月刀はそこにあった石像を真っ二つに切り裂いた。



その隙を突いたバルドが、母に向かって剣を繰り出す。けれど、アスカ妃は隠し持っていた短剣で息子の攻撃を凌いだ。


その間、ロゼッタさんも参戦しようとしたけれど。アスカ妃の近衛や側近に拘束されて叶わない。


あたしはただ、バルドの邪魔にならないようエークの首にしがみついてるしかなかった。


本当はバルドにしがみついていたかったけど彼の動きの邪魔になるし、エークの不思議な粒子が物理的な衝撃から護ってくれてたから。それが最善だと思う。


やがて、目にもとまらぬほどの剣戟が繰り広げられ始めた。


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