異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
《和!》
「え? ……わっ!」
ぶん、と飛んできたものを反射的に掴めば、それは見覚えのある剣だった。
細身だけど、鈍く輝く反りが美しい刃。赤い宝石が埋め込まれた柄には、緑色のふさがついてる。
「これ……公爵の」
《驚いてる場合か。それで2人を止めるのじゃ》
ヒスイの姿は見えないまま、言葉が頭の中に響くけど。そんなこと言われましてもね。いきなり剣が飛んできたら、誰だって驚きますわ!
「……って言っても。あたしの腕じゃとても2人を止めるなんて」
《そなたは巫女じゃろう。己を信じるのじゃ》
ヒスイがまともに喋るだけで何だか気が抜けそうになるけど、確かにあたしは水瀬の巫女。巫女は人々の争いを諌めるものだ。
方法はわからないけど、やってみようと思う。
剣を両手で握りしめて、深呼吸。目を瞑ると目の前に集中した。
すると不思議なことに、水色の光が浮かんで見える。剣の形そのものに見えてきた光は、その先を示すように輝きを増した。
(……動かせばいいの?)
握りしめた剣を一度大きく振りかぶる。そして、そのまま振り下ろした瞬間――。
唐突に風がおきると、それはちょうどあたしの真ん前を突き抜けて左右を二分するように強風が吹き荒れる。その猛烈な風によって、アスカ妃のエークがよろめき彼女は落ちぬようにしがみつくしかない。
風が吹き抜けた後、アスカ妃はエークごと5mほど後ろへ下げられていた。