異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
そして、アスカ妃は初めてまともにバルドを見る。最初はククッと小さめに笑い始めたけど、次第にわははは! と盛大な笑い声を上げた。
「そうか、我が息子は巫女を捕まえたか。なかなかやりおるではないか」
「え……え?」
あたしは信じられない思いでアスカ妃を見た。だって、この気安さはとても10年息子を避けてきた母親のものとは思えない。
だからといってバルドの話が嘘とは言えないだろうな。事実、つい先ほどまでは険悪な空気だったのだし。
お腹を抱えて笑うアスカ妃に、バルドから絶対零度の冷たい視線が突き刺さる。
「母上、オレを独り立ちさせるためにわざと避けてたのか?」
「そうだ、と言えばどうする?」
「どうもしない。やはり母上と思うだけだ」
何がおかしかったのか、アスカ妃は噴き出すと再びお腹を抱えて笑う。しばらく呆気にとられたけれど、ほっとした。
(よかった。バルドとお母様が仲違いを解消して。こんなにもたくさんの人たちに見られていたなら、きっとすぐに広まるよね)
ほっと息をついたあたしは、手にした剣に改めて気付いた。
ハルバード公爵がヒスイを刺した剣。ヒスイから渡されたけど、役立ったのは偶然?それとも……意図的なもの?
(わからない……ハルバード公爵はいったい何を考えているんだろう)
なんとなく底の知れない怖さを感じて、ぶるりと身体が震える。そんななか、アスカ妃の声が耳に入った。
「来るがよい、皇帝陛下も一日千秋の思いで待ちわびておった。帰ったらすぐ顔を見せるがよいぞ」