異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「まあ、いきなり訊かれても答えられないよね」
起き上がった皇帝陛下は、パチンと指を鳴らすと侍従長を呼んだ。
「はい」
「和に城下町を案内してあげて。あ、もちろん変装させてね」
「え?」
唐突な命令にポカンとしていると、皇帝陛下は相変わらずボリボリとお尻を掻きながらのたまう。
「いきなり訊かれても困るでしょ? 答えが出るまで気分転換がてら楽しんでおいでよ。おれ、バルドと話してるからさ」
「え、っと……バルド。あたし」
どうすれば良いのか解らずに、バルドを見上げると。彼はこちらを見ずに「行け」と言う。
「従者としてヒルトをつけさせる」
「……バルド、あの……」
「話なら後で聞く」
にべもなく拒まれてしまえば、口をつぐむしかない。
(バルド、怒ってる……よね? やっぱりあたしが皇帝陛下の質問にすぐ答えられなかったから……)
どうしてあたしは、あんな単純な質問にすら咄嗟に答えられなかったんだろう。
ギュッとスカートを握りしめた手のひらは、知らず知らず震えていた。
「……わかりました。ご配慮に感謝致します」
今は、言われた通りにするしかない。
お城に入る前はあれだけ浮き立った首都の街並みなのに、いざ出かけられるとなると、どうしても楽しみにできなかった。