異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
第35関門~カレー屋にて。
カレー屋は黄色をベースにした木造の平屋建てで、一見民家にも見えたけど。あちこちにはためく昇りがそうでないと教えてくれる。
周りに緑を植えた日本の古民家をイメージしたような建物は、コンクリートとアスファルトでできた街の中で異彩を放ってた。
(ここが……秋人おじさんが作ったカレー屋)
ドキドキと高鳴る胸を押さえながら、ふうと息を吐く。
以前バルドの翡翠宮で聞いた噂では、お金持ちが赤字にも構わず道楽で営業してるって。
(どんな人がお店をやっているんだろう? 秋人おじさんの痕跡はなにかあるのかな?)
おじさんは無類のカレー好きだったから、きっとカレーが無いのに耐えかねて自分で材料を集めてオリジナルレシピを作り上げたんだろうな。週に一度はカレーを食べないと禁断症状が出るほどの中毒だったし。
ふう、と深呼吸をして気持ちを落ち着かせたあたしは、ガラス製で出来たドアのノブを掴んでひとりごちた。
「よ、よし! 行くよ」
気合いを入れてドアを開いた瞬間――
飛んできた何かがべちゃりと顔に張り付き、視界がすべて遮られた。