異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「あ~すまんね。あんまりヒマだったから、雑巾を投げて遊んでたんだわ~」
壮年男性の声で謝罪が聞こえたけど、たぶん本気で悪いとは思ってない感じだった。見えなくても解る。おそらくヘラヘラ笑ってるはずだ。
「ニコラス卿……仮にも公爵であるあなたが、バルド殿下の婚約者になんという無礼なことを」
バルドの侍従長であるリヒトさんの咎める声で、もしかすると道楽で経営してる貴族かもしれないって期待が膨らんだ。
「なごむ、大丈夫か?」
ロゼッタさんが雑巾を取り除いて、手に持ったタオルで顔を拭いてくれたけど。
「不潔ですから、一度ちゃんと洗った方がいいですよ」
外から顔を出したレヤーがそうアドバイスをしてきたからか、貴族らしきおっさんは立ち上がる。
年齢は50前後で白髪でグレイに染まった髪を後ろで適当に括ってる。チョビヒゲを生やしてひょろりとした細長い体に、黒のズボンと白いシャツに白いエプロンを身に付けてた。
「それもそっか。手洗いないから厨房の水を使いな。ほら、入っていっからさ」
公爵というにはずいぶんと乱暴な言葉遣いで、厨房のドアから中へと招き入れてくれた。
何の特別感もなく気軽にそちらへ入っていったあたしは、目の前に現れた光景に目を見張ることになる。