異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「うん、やっぱりバレたよね」
ゴリゴリと実をすりつぶしつつ、ニコラス公爵はほんのちょっぴりと真面目な顔になる。
「カレーがこの国で普及しなかった原因は、まあ。代々の皇帝が外部での提供を禁止したからなんだよね」
こんなに美味しいのにね、とニコラス公爵はすりこぎに新しい実を入れる。
「初代皇帝の婿であるアキトがこの店を作った……彼はカレー好きだったからね。初代店長も彼だったし」
「え、そうだったんですか?」
「うん。だって、この厨房に入れるのは日本人か、代々の店長だけって制限のある強力な結界を張ったのが彼だからね」
「へ?……結界?」
言われて初めて気づいた。そういえば、よくよく注意をすれば厨房全体を虹色の膜のようなものが覆ってる。
……この結界を、秋人おじさんが張った!?
「だから、あたしを日本人と見破ったんですか?だけど、あたしは純粋な日本人じゃないのに」
お母さんはこちらの世界出身だし、あたしを身ごもったのもこちら。血で言えば異世界人と言えるんだけど。
あたしのそんな疑問は、唐突な声で解けた。
《血など問題ではない。大切なのは心の拠り所じゃ》
急に現れて目の前に降り立ったのがヒスイだった。