異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「その通りです」
公爵はあっさりと認めて、空になったお皿に追加のカレーを盛ってくれた。いつの間にか完食してたみたいだ。
「この店の存在意義……それは秋人殿の味をあなたに伝えるためだったのですから」
コトリ、と置かれたカレーは懐かしい香りを届けてくれる。幼いころ……おじさんが居なくなる前の日の夜、食べたものとまったく同じ味と香り。懐かしくて切なくて、涙が視界を白くする。
「この秘伝のカレー粉だけはどの客にも出さず、100年間特別な保存してきたもの。あなただけのカレー粉なのです。秋人殿自らあなたのために作り上げたものですから」
同じレシピを何度も試してみましたが、やはり同じようには作れませんでした。公爵はそう笑うけど。
道楽で続けられた唯一のカレー屋は、秋人おじさんがあたしに伝えたかった味のため。それが、100年続いてきたカレー屋の存在意義……。
「確かに懐かしいおじさんの味です。長い間……ありがとうございました」
本当はこれだけじゃ済まないだろうな。100年と言葉にすると簡単だけど、きっと公爵は何代にも渡ってこのお店を守ってきてくれた。その苦労は想像だにできないけど、並大抵のものじゃないはず。
「本当に……なんてお礼をすればいいか」
「いいのですよ。この店の意義はあなたにカレーを食べさせることもですが……もうひとつ。あなたが厨房でご覧になったことと関係もあるのですから」
公爵は少しだけ生真面目な顔になると、レヤーに30辛のカレーを出した。
「……地下の……遺跡とあれのことですか?」
「はい。あれの存在はごく一部の人間しか知りません。しかし、今のディアン帝国より遥かに優れたスーパーテクノロジーが眠っている。もしも全てを目覚めさせれば……この世界どころか、時空を越え異世界にも攻め込むことが可能になるでしょう」