異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



そう。あたしが彼を見ただけで信頼できると思ったのは、彼の瞳からだ。


他人から言わせれば、きっと“たったそれだけ?”って浅薄な理由。何の根拠も無いに等しいと言い切られたっておかしくない。


でも、あたしは信頼するに足るひとだって直ぐに判った。


まっすぐにこちらを見てきた芯の強さと、何者にも揺るがない硬い意思の光。あの若さで何もかも悟ったかのような、達観した眼差しも。


そして……何よりあたしが揺さぶられたのは。


得体の知れない、衝動的なもの。


“この人なら”“この人でなきゃ駄目だ”


自分でも言い知れない強い衝動だった。胸の奥底から激しく噴き出した熱い感情に突き動かされ、気づいたら彼に頭を下げていた。


あれは一体、なんだったんだろう?


後にも先にもあんな衝動的なことをしたのはあの一度きりだったし、きっともうないだろうという確信めいたものがある。


(もしかすると……あたしは水瀬の巫女として……無意識にパートナーを選んだの? お母さんがあたしのお父さんを選んだように)


水瀬の巫女がパートナーを選ぶ条件だとか選定方法は、あたしは知らない。ヒスイが教えてくれないからだ。


もしかすると自分で選ぶ必要があるから、余計な知識を与えないのかもしれないけど。


(お母さん……お母さんはどうやってお父さんを選んだの? あたしと同じように衝動的に選んだの?)


もういないお母さんに心の中だけで訊ねると、ほうっと息を吐いて公爵を見上げた。


「……このカレー屋は想像以上に重要な役割があるようですね」

「そうですねえ。少なくともあなたの不利になることはないはずですよ」


レヤー用に50辛のカレーを持ってきた公爵は飄々とおっしゃいました。


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