異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「そういえば、ここって不思議な感じがしますね……あぢぢ」
羽毛に埋もれててもわかるほど顔を真っ赤にしたレヤーが、50辛のカレーで炎を吐きながら言う。
「不思議って、何が?」
「このお店自体もですけど。ここを中心に帝都全体に力が張り巡らされてるのを感じました。おそらくは護りの結界に近いものですが、たぶん役割はそれだけではないでしょう」
石のテーブルに向かい合わせで座ったレヤーは、お皿を両翼で抱えてカレーをくちばしに押し込んでは涙目で火を吐く。そんなに辛いのが好きなんですかい。
「結界……ねえ」
「でも、不思議と言えばもう一つ。護りの結界なら普通は中心――要となる場所を軸にして張るものですけど。スマガラ城は範囲内にあっても中心ではない。なんだかおかしくないですか?」
レヤーは70辛にチャレンジ! と言いながらカレーのおかわりをする。炎を吐く鳥はともかく、彼の指摘はなるほどと納得のいくものだった。
(たしかに、地下から感じた葉脈のような力の流れもこのお店を中心に広がってた。秋人おじさんが張った結界の要がここにあるのに間違いはない)
カレー屋が単なるカレー屋ではなくて、思ったよりも重要な役割があるのかもしれない。ニコラス公爵の胡散臭い笑顔を見ながらそう確信した。