異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
あたしの唐突な質問に皇帝陛下は鼻をほじりながら……いや、そういう時くらい真面目になろうよ。
「う~ん、そうだねぇ。戦争は起きてしまうと悲しいよ」
その放たれたひと言に、あたしはカチンときた。
「悲しい? でしたらなぜ、止めなかったのですか。あなたでしたら……姿形がどうあれ、仮にも最高権力者であるあなたであれば、止めることは可能だったはずでは?」
ユズから聞いた、セイレスティア王国の甚大な犠牲。あの国では3人いた王子のうち2人もが戦死している。他にも犠牲者や戦禍が焼き付くした被害は相当なものだろう。
不可侵条約は結ばれ協定が成立したとはいえ、遺恨が簡単に消えるとは思えない。燻った悲しみや消えない憎しみは、やがて膨らみ新しい不幸を呼び込む。
あたしは国家間の戦争を体験したことはないけれど、近い状況は経験した。【闇】のモノたちの襲撃によって、たくさんの犠牲を出した。 なにせ、宮殿と首都が陥落寸前まで追い詰められたんだ。
あの時苦しみや痛みや悲しみ……やりきれなさ。無力感。いろんな思いを味わった。
セリス王子だって一度失って……。
決して、いいはずがない。戦いや戦争なんて。
止められる力がありながら、なぜ開戦を看過したのか? あたしはどうしても知りたかった。皇帝陛下は何を考えていたのかを。
「それを言われると弱いけど……」
よっこいしょ、と上半身を起こした皇帝陛下はポリポリと指先で顎を掻きながら弱ったなと呟く、でも。とすぐ真顔になった。
「じゃあ、訊くけど。君ならどうやって止めた?」