異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。




「わたしなら、命令して止めます。あなたの地位ならばそれも可能でしょう?」


何を当たり前なことを、とあたしはムカつきながら胃を押さえた。


現実にあたしは今のところ、バルドの正式な妃ですらない。巫女であることを抜きにすれば、ただの一般人。むしろ何の後ろ楯もなく不安定な身分だ。


本来ならこうして皇帝陛下に謁見どころか、お城に近づくことも許されない。バルドとアスカ妃の許可を得たから、入城と謁見は叶ったけど。


絶対君主制をとっているディアン帝国では、身分と血筋と後ろ楯が重要。本来ならあたしみたいな平民は、貴族と口すら利けない。


そんなあたしが誰かに命令なんてできないし、仮に命じたところで聞くひとも従うひともいないだろう。


それにひきかえ、皇帝陛下は全ての面で最高の血筋と地位と権力を持ってる。誰にだって好きなように命令できるし、好きなように動かすことができる。

そんな絶対的な力がありながら、どうして何もせずに戦争を起こしてしまったのか。あたしは本当にムカムカしてきた胃を押さえながら、咎めるように皇帝陛下を見据えた。


「あなたなら、できたはず。なのに止めなかった……わたしはそれが理解できません」

< 699 / 877 >

この作品をシェア

pagetop