異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「そうだなあ……」
ポリポリと髪の毛を掻きながら、皇帝陛下はあたしの睨みを受けとめる。
「戦争が起きてしまったことに対してはね、ぼくだって責任を感じてはいるよ」
「なら……」
「でもね」
皇帝陛下は手を振ってあたしの言葉を制すると、真顔になっておっしゃった。
「国というものは、一人でどうこうできるシロモノじゃない。ことに、大きくなればなるほど、御しきれない怪物となる」
それは国に限らないけど、と皇帝陛下は頬を掻く。
「一人では、何にもできないんだよ。王者というものはさ。絶対的な権力者だって、結局は他人が必要だろう? 命令を実行したりするにも誰かを使わなきゃならない。結局、王だとて一人でできることなどほとんどない」
「……たしかに、そうですけど」
皇帝陛下は胡座をかいたままの姿で、大きなため息を着いた。
「周りに人がたくさんいて賑やかなようで、王とか皇帝なんて所詮一人ぼっちさ。一番の責任を背負わねばならない……決断ひとつが国の……民の命運を左右するんだ。生半可な覚悟では決められない。苦労を分かち合う人間がいたところで、結局決断し命ずるのは自分でだからな」
だから、と皇帝陛下はまた横へごろんと寝そべった。
「開戦は、怪物を御しきれなかったぼくの責任さ。結局決断し命じたのはぼくだし……皇帝という地位があったところで、大勢の思惑の前に飲み込まれることもあるさ」