異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「うん」
おっさん(もう面倒だから、おっさんでよし!)は気の抜けた返事をした後、ふああと大きなあくびをしてポリポリとお尻を掻いた。疲れるからもうツッコミは放棄します。
「だってさ~世界滅亡なんて面倒じゃん。自分の代でんなことになったらさ~ぼくが恨まれるじゃん。歴史にだって愚帝とか書かれるの嫌だしぃ。あ、人間が生き残ったらの話だけどね」
「…………」
「それにさあ」
涙目であくびを繰り返したおっさんは、むにゃむにゃ言いながらあたしを見た。
「知ってたんだよね、おれ。水瀬の巫女にはとんでもない力があるってさ」
再び真顔になった皇帝陛下は、真面目な瞳がバルドにそっくりで。やっぱり親子なんだと解る。
「ご存知でらしたのですか?」
「ああ、ヒトミからの言伝てでね」
「お母さんの?」
そういえば、皇帝陛下はお母さんに会ったことがあるって聞いた。日本へ逃亡する手助けをしたのなら、それも不思議じゃないけど。
「そうそう」
皇帝陛下は今思い出したよ、と言いながら自分の髪の毛をいじりだした。
「きみ、昔バルドに会ったことがあるよ」
「え?」
あたしが以前バルドに会った?そんな記憶は一切ないと思うけど。もしもすごく小さな頃なら記憶は曖昧だから、自信がない。
そんなふうに悩むあたしに、皇帝陛下は肩を竦めた。
「もっとも、君はヒトミの腹の中だったから。正式に会ったとは言い難いけどね」
そうそう、と皇帝陛下は作り付けの棚から何かを手に取って差し出してきた。
「これは、ヒトミがぼくに預けてたもの。どうやら返す時が来たようだから渡すよ」