異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「実際、ハルバートが暗殺されてよかったことがあるんだ」
よっこいしょ、とおっさんはフローリングの上で正座をした……え、正座!?
「暗殺された……学友だったのに、庇わないんですか?」
「学友どころか、本当なら親友だったよ唯一のね。だけど……あいつは変わっちまった。軍務大臣の地位を利用して……おっばじめたんだからな。国境戦争を」
「……先代の、ハルバート公爵が?」
真顔のおっさんは流石に悲しみをたたえた瞳で、うんと首を縦に振る。
「一連の戦争が始まったのは20年前……正確には23年前だな。それまで国境の小競り合い程度はあったが、あくまで一部隊単位のトラブルに過ぎなかったし、怪我人は出ても死者などあり得なかった。
だが……ハルバートがごり押しした国境戦争は、宣戦布告無しの奇襲。当然、相手は応戦したが、駐屯部隊1000人がほぼ全滅という悲惨な結果を引き起こしたんだ」
「………」
あまりに惨い事実に、胃がむかむかして手を当てた。
「ハルバート公爵がその結果を?」
「ああ。結果的に国境の形は変わり、ディアン帝国の領土は広がったが……こんな形でなど誰も望んじゃいなかったさ。当時はおれも皇太子に過ぎなかったし……力がなかったんだ」
おっさんは悔しそうに歯噛みすると、ギュッと拳を握りしめ床に叩きつける。その顔は――悔やむバルドにそっくりで。心根も含めてやっぱり親子なんだ、と感じた。