異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「なにか、音がスル」
ロゼッタさんが、パッと目を見開いた。彼女が眠りだして20分くらいだろうか。
「えっ?」
目をつぶって耳を澄まし、神経を集中してみる。けど、あたしには何にも聞こえない。
「あたしには聞こえないけど……どういう音?」
「何かが流れてくる音だそうですが……この音はまさか」
レヤーがハッとしたふうに立ち上がり、あたしたちに素早く言う。
「和さん! 今のうちに私とあなたの体を紐や綱で繋いでおいてください。なるべく丈夫なもので。それと、鼻と口を布で覆ってしっかり結んでください」
「え、うん」
レヤーはロゼッタさんにも同じことを伝えたらしく、彼女はカバンから縄を取り出し自分とダチョウをしっかりと繋ぐ。あたしも慌ててカバンを探るけど、犬のリードくらいの太さの紐しかない。
ないよりまし、と急いでレヤーの体に巻き付け、自分の体に巻いてしっかりと結びつけた。それから救急用の綿の布で口と鼻を塞ぐ。
やがて――
轟音とともに近づいてきたのは、大量の砂だった。かなりの勢いのそれに、岩穴から押し出されるように流される。
頭を出すのがいっぱいいっぱいで、ロゼッタさんとダチョウがどうなったかわからない。レヤーにしがみつきながら、何とか沈まないように必死で呼吸を繰り返す。
砂に流されたのはどれくらいの時間だったのか。気がついたら、まったく知らない遠い土地で次の朝を迎えていた。
セリス皇子とハルトの姿は、いくら捜してもなかった。