異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
滞在する部屋に戻ると、長椅子にぽふんと腰かけた。やっぱりちゃらんぽらんでいい加減でも、この国の最高の地位にあるおっさん。緊張感や疲労感が半端ない。
「なごむ、だいじょうぶか?」
「うん、なんとかね」
いろいろと聞いて気分の悪さもあるし、ちょっとつらい体調だけど。お母さんも同じ状態で日本へ渡ったんだよね……想像しただけで、すごく勇気ある行動だったんだなって今更ながら思う。
いくら他に選択肢が無かったとはいえ、誰一人頼ることもできない。それどころか生きて行ける手段も保証もないのに、思い切って単身異世界へ渡るなんて。巫女としてある程度の予知ができたとしても、相当な不安や怖さはあったはず。
(もしもあたしのお父さん……お母さんのパートナーが亡くなってなければ……きっとお母さんはこちらにいたままだよね)
水瀬の巫女にとって、契約のパートナーは生涯をともに誓った魂からの結び付き。伴侶と言っても過言じゃない。
(夫婦……だったんだよね、きっと。お母さんはお父さんを愛してた……)
お父さんのことを語る時……お母さんはとても優しい目をしてた。そして、寂しそうな瞳にもなって。少なからず郷愁の念があったんだと今なら解る。
(お母さんはやっぱり帰りたかったんだろうな……この世界へ)
あたしが生まれ育った日本へ帰ることに固執したように、やっぱり故郷は特別だ。お母さんがあたしを身籠ったのがこちらだとしても、あたしにとってのふるさとはやっぱり育った地である地球の日本。
血筋がこちらだとしても、懐かしく慕わしいのはやっぱりそこなんだ。たとえ嫌な思い出の方が多くても。