異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
今までの様々な言葉の端々から、お母さんは娘のあたしを水瀬の巫女にしたくなかった……つまり、ごく普通にひとりの女性として幸せに暮らしてほしいと。こんな因果に関わらず、何も知らずに人生を終えて欲しかったと望んでいたと解る。
それは、たぶん。あたしが水瀬の巫女の因果を自分の死で終らせようとしたことと同じ。悲しみや不幸を繰り返さないため、巫女という役割を放棄させようとした。
もしもあたしがこの世界へ来なければ、何も知らずに一般人として生きたことは想像に難くない。
親しい人とは縁が薄かったけど、それでもあたしには唯一無二の友達である芹菜がいた。もしかしたら他に大切な人だってできていたのかもしれない。
けれども、実際にあたしは召喚されてこの世界へ――ディアン帝国へとやって来た。
そもそも、あたしを召喚したのは誰?
あたしを水瀬の巫女と知っていて、なおかつ日本にいるとの情報を持つ人物。それは皇帝陛下が関わる機密である以上、ごく一部の人しか知らないはず……。
なら、いったい誰が?
それに、あたしを召喚したのにその理由が未だにはっきりとしない。召喚してからかれこれ半年近く経つのだから、今まで接触がないとおかしい。
そこで、ドキンと心臓が嫌な音を立てた。
“接触がないとおかしい”――自分の思考なのに、その言葉がギリッと胸に食い込む。
「まさか……」
あたしはひとり、呆然としながら呟いた。
「あたしを召喚したひとは……今まで接したなかにいる?」
何気ない呟きだったのに、何故だか妙な確信を得てそれが事実だと胸にストンと落ちてきた。