異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「……構いません。動機はどうあれ、私は今幸せですから。バルドに必要とされて……」
そして、この子を授かったのだから。無意識にそっとお腹に手を当てる。
まだ懐妊を発表する段階でないから公表できないけど、あなたは叔父になるんだよと知ったらこの人はどんな顔をするんだろう? 知らず知らず、微笑んでいたと思う。
そんなあたしに、ライネス皇子は大きなため息を吐いた。
「……見事に懐柔されたか、バルドに」
「懐柔? いいえ、違います。私は……」
「だけどな、言っておくがあんたは騙されてる」
「は?」
ライネス皇子は生真面目な顔のまま、あたしを見据えて真剣に話し出した。
「忠告だ。バルドをあまり信用し過ぎるな。やつは俺でも計りきれないほど腹黒い。おまけに迫真の演技が得意ときた。男優並みにな」
ライネス皇子の物言いにムカッ腹立つ。お腹を押さえたまま、すぐに反論をした。
「あなたに、バルドの何が解るんですか?」
「少なくともあんたよりは理解してるさ。生まれて24年間ずっと間近に見てきたんだからな」
それを言われては反論のしようがなく、グッと言葉を飲み込むしかない。すこし俯いたあたしに、ライネス皇子はこう提案してきた。
「もしも、あいつと離れたいなら協力してやるぞ?」
「え?」
何を言われたのか咄嗟にはわからなくて、顔を上げるとライネス皇子はあたしを見たまま複雑な顔をした。
「もしも日本へ還りたいなら、手を尽くし逃してやろう……巻き込んだのは俺たちの責任だからな」