異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
日本へ、帰る?
現代日本へ?
突然提示された選択肢。だけど、それは無理だとあたしははなから知ってる。
あたしはライネス皇子に静かに首を振った。
「せっかくのお申し出、ありがたく思います。けれど……もし仮にわたしが戻りたくても、物理的に無理だと聞きました」
「セイレム王国で聞いたか。だが、水瀬の巫女は例外というのは知らぬようだな」
「え?」
初めて聞く情報に、耳を疑う。口から出任せではないの? と疑わしい視線を向けたからか、ライネス皇子は苦笑いをして肩を竦めた。
「疑うのは当然だろう。俺とあんたは今日がほぼ初対面。信用しろと言う方が無理なのは承知してる。出たらめを並べ、揺さぶりをかけに来たという方が自然だ」
「では、なぜ? わざわざわたしへそんなことを話にいらしたのですか」
信用されないと解りきっているならば、あたしに告げる意味がわからない。バルドというよりライネス皇子に不信感が募る。
けど。
ライネス皇子は至極真面目な顔つきになると、憐憫さを隠そうともしなかった。
「あんたは、肝心なことをバルドに隠されている。気づかないのも無理はないがな」
「……何が、ですか?」
不信感を隠そうとしないあたしに、ライネス皇子は躊躇いつつとんでもない爆弾を落とした。
「……あんたをこちらに召喚したのは、バルドという真実をだよ。あんたはただの道具として召喚されたんだ」