異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
え?
この人は、何を言ってるの?
ライネス皇子は日本語をしゃべってる。日本で生まれ育ったあたしには一番馴染み深い言語であるはずなのに、彼の声が鼓膜を通して頭に届いたとたんに理解ができなくなる。
ぼんやりとライネス皇子の顔を見ていると、彼は――血縁だからかどこかバルドに似た彼は、憐れみの目をあたしに向けてきた。
「理解したくない、聞きたくない。そう拒みたくなるのも無理はないが、いいか? 俺が話したのはあくまでも事実だ。言霊の姫の召喚に失敗した折、俺がセイレスティア王国へユズを奪還しに向かった。だが、あいにく王国屈指の騎士であるティオンバルト王太子に阻まれ――やむなく諦めざるを得なかった。
そして、バルドはそれを知った時にこう呟いた。
“ならば、水瀬を召喚する。代わりにはなるだろう、道具としてはな”
はっきりと、やつはこう言ったのを俺はすぐ近くで聞いた。
“ちょっと優しくすればいいだろう。孤独に耐えている安い女には十分だ”――とも言った。
やつは計算ずくであんたに近づいた。今だって、どうすればあんたを最大限に活用すればいいか考えているだけだ。
やつにとってあんたはただの道具。子どもまで道具扱いされ、最後には親子ともども冷たく見捨てられるだろう。最悪命すら奪われるかもしれない。そんな不幸に陥りたくないなら、子どもを思うなら……日本へ帰れ。
日本へ帰ればバルドはあんたたちに二度と手出しできない」