異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



ライネス皇子の話は唐突過ぎるし、初対面から突拍子もないことを言われてにわかに信じられるはずがない。


ショックで動きだした頭は、彼の言葉は虚言という答えを導き出そうとする。


だって、おかしい。


ライネス皇子は皇位継承の点でも政治的にもバルドのライバルなのに、どうしてあたしに親切に教えてくれるの? 意味がわからない。


そりゃああたしがバルドから離れれば、彼は手駒のひとつを失うことになるけど。

そこまで考えて、ギクッと胸が軋む。


――駒。


あたしは……バルドの駒? 政治的な道具の1つ?


突如浮かんだ暗い疑惑はどんどんと胸を覆い隠しそうで、あたしは首を左右に振った。


「し……信じません。あなたがおっしゃることが事実という証拠はありませんから」

「だが、嘘とも言い切れまい。そうだろう?」


ライネス皇子は腕を組むと目を細め、意味深長に笑った。


「真実など、受け取り方でどうとでも解釈できる。バルドの行動を裏切りととるか、それとも受け入れるか。後はすべてあんた次第。だが、俺は政治的思惑や損得勘定抜きであんたを助けたいと思う。
もしも日本へ帰りたいと望むならば、メッセージを寄越せ。その腕輪の解除と帰還を手助けしてやるよ」

「…………」


日本へ……帰る。


もしも話のすべてが本当なら、あたしはどうするんだろう? ぼんやりと考えて、それじゃ駄目だと激しく頭を振った。


あたしは、バルドを信じるって決めたんだ! だから、他人の言葉に流されずにきちんと彼に確認を取らないと。


残酷な真実が露になっても、裏切られたと泣くのはずっと後でいい。


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