異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「おまえ、いい加減なことを言うなよ」
地を這うような、女性の低い声が聞こえた。
突然あたしの目の前に割り込んできたのは、護衛のロゼッタさん。いつもはあまり抑揚をつけないしゃべり方をするのに、今の彼女は不機嫌さを通り越して敵意を露にライネス皇子に相対する。
「わたしはずっと2人を見てきた。2人は偽物じゃない絆と縁がある。おまえこそ、和を惑わす悪いやつだ!」
肩を震わせるほど怒ってくれたロゼッタさんに、あたしは不安な気持ちがちょっとだけほどけるのを感じる。
ただの護衛が皇子にそんな態度を取るのは無礼過ぎるし、捕まってもおかしくはないけど。ライネス皇子は平然と彼女の批判を受け止める。どころか「ずいぶん元気だな」とニヤリと笑い更に彼女を激昂させた。どう見ても余裕でからかってる。
そうだ。あたしはもう一人じゃない。周りにはたくさんの人がいてくれる。ひとりでうじうじ悩んでる場合じゃない。
もしも。
あまり考えたくないし、あり得ないと思いたいし。信じたい。
だけど、ライネス皇子の言う通りで。もしも万が一バルドがあたしを道具として見なしていないのだとしたら……。
それは、きっと。とてもつらいことだ。
お腹に手を当てたまま、考える。
もしもそうだったとしても、あたしはバルドのそばを離れられる?
自分にそう問いかけてみた。素直になって考えてと。
だけど、やっぱり。
いくら考えたって、あたしの答えなんて決まりきってる。
「……いいえ」
あたしはロゼッタさんに視線で退いてもらうと、静かにライネス皇子を見上げ首を振った。
「わたしは、たとえバルドの真意がそうでも。彼のそばを離れません。逃げない、と決めたんです。泣くよりも、彼をぶん殴ってでも必要だと認めさせてみせますよ」