異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「お母さん、“あちら”ってなあに? “ヒゲキ”って?」
「……和……」
ぎゅっ、とお母さんに抱きしめられた。いつもだったら嬉しくて笑うけど、あたしを呼ぶ声が泣きそうに震えてて。幼心にどうしたんだろう? と感じた。
疑問符だらけの耳に、キャン! と小さな鳴き声とザブンという音が聞こえた。
振り向いてみれば、いつの間に近くに来たのか子犬が川に流されてる!
「お母さん、子犬ちゃんが!」
「駄目だ。昨夜の雨で増水して流れが早い。とても助けに行けないよ。可哀想だけれど、あれが子犬の運命だったんだ」
秋人おじさんが沈痛な面持ちで駆け出そうとしたあたしを抱き留める。
確かに、遠くから見ても川は濁流が流れていて、川幅いっぱいに勢いよく流れるスピードも水かさもすさまじい。たぶん、水深は2m近かったと思う。大人でも押し流されるレベルだから、秋人おじさんが言ったことは間違ってない。
だけど、当時のあたしは子どもだった。何もわかってないくせに、正義感だけは人一倍あるような。本当に生意気な子ども。
だから、出来ないと言い切った秋人おじさんに失望して。彼の手を噛んでその腕から逃れると、猛ダッシュで川辺へ走った……その瞬間。ビリッと体が軽く痺れて、ガクリとその場で膝をついた。