異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「和、駄目よ! 秋人の言う通りなの。可哀想だけれど、仕方のないこともあるの」
声を震わせたお母さんはあたしをギュッと抱きしめながらもつらそうだった。だけど、あたしはどうしても納得出来ない。
どうして、助けられないの?
何が仕方ないの?
おかしいよ、そんなの!!
子犬を助けたいだけなのに。みんな無理だって言う。なら、あたしが助ける。
ううん、きっとあたししか助けられない。
助けなきゃ。
あたしが、助けるんだ!
そう強く願った刹那――
あたしの目の前に、水色の光が見えた。糸のように細長いそれに触れると、熱が伝わってくる。
そこに、小さな光がぼんやりと浮かんだ。
――子犬の命だ。
遠ざかるそれが何かを本能的に理解したあたしは、その光を追いかける。そして片手で掴むと……水色の糸を違う手で手繰り寄せた。
ざああああ、と。潮騒にも似た音が聞こえた。
お母さんが、何かを叫んでる。だけど、あたしには理解ある音として伝わらない。
子犬の姿が濁流の間から見える。だんだんと近づいてくる。
そうだ。
あの時あたしは……川を。
幅が500mある増水した川を、無意識に逆流させたんだ。子犬を助けたい一心で。
どころか、一時的に流れをも止めた。子犬を川から助け出せるようにと。
子犬は秋人おじさんが助けて連れ帰り、一晩面倒を診たら元気になったけど。
お母さんが、その夜泣いた声を聞いた。