異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「その、【闇】ってどんなものなの?」
「言い表すのは難しいですが、ビジュアル的には濃い霧ですね。白とかじゃなくって、闇のように真っ黒です」
「……霧」
レヤーからの情報に引っ掛かるものがあって、ちょっと考えてみた。そういえば、レヤーはセイレム王国にいた時に気になることを話したかな。
「ねえ、レヤー。セイレム王国の襲撃の際は確実に【闇】の勢力が関わってたんだよね?」
「それは断言できます。あちこちで濃い気配がありましたし、和さん自身にも術がかけられてましたから」
レヤーの言葉から、そういえばあたしは一時的に記憶が欠落していたんだと思い出す。セリス王子の死を受け入れたくなかったのか、【闇】の術が影響したのかは知らない。けど、その時のあたしを黒い霧が覆っていたとレヤーは言った。
「その時、レヤーはあたしに黒い霧が……って話したじゃない。それって以前戦った【闇】と同じだったの?」
「はい。巫女である和さんでしたから、あまり悪さはできなかったのでしょう。ですが、普通の人間ならば心身ともに蝕まれ、即座に命を落とすか狂死するレベルでしたよ」
「……そうだったの。あの時はありがとう、レヤー」
愁傷にお礼を言っただけなのに、突然レヤーは飛び上がって壁に張りついた。
「……何してんの?」
「い、いえ……和さんがそんなに素直になられるなんて。天変地異の前触れかと……ひいっ!」
キラリ、とレヤーの顔の真横で光るのは、あたしが投げたフォーク。壁に突き刺さったものを、レヤーは震え上がりながら涙目で見た。
「よけいなひと言が言えないように、永遠に口を閉じたい?」
「ご、ごめんなさいいいぃ」