異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「なにか、嫌な気配がする。ナゴム、気をつけろ」


今の今まで寡黙に護衛していてくれたロゼッタさんが、珍しく自ら発言をして注意を促してきた。 ずっと後ろに立っていた彼女を見上げると、厳しい顔つきで宙を睨み付けてる。


もしかすると、戦士としての勘みたいなもの? あたしが黙って頷くと、レヤーも両翼で持ったティーカップを静かに置いた。


「なんでしょうね。ロゼッタさんがおっしゃるような嫌な気配なんて……」

『和、とやら。我を出せ』

「え!?」

『早くせよ。そなたらが自らの心が囚われたくば構わぬがな』


それこそ今の今まで存在すら忘れかけていた雷焔が、唐突にあたしの中に話しかけてきた。雷焔はずっとあたしのポケットの中に卵のままいたけど。何の干渉も実害もなく、存在感なんて無かったのに。


「え、何で?」

『いいから、早くせよ!』


意味が解らなくてキョトンと訊き返すと、雷焔が怒鳴り返してきた。とほぼ同時に、背中にゾクリとした寒気が走り抜ける。きっと、身体中の肌は総毛立っている。それくらい強烈な悪寒だった。


慌てて雷焔をポケットから出した瞬間、卵のままだった彼は突然炎で仮の体を形作る。その巨大な炎が形を為した瞬間――


どこからともなく、霧が入り込み部屋を満たし始める。


毒々しいまでに真っ赤な霧が。



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