異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「それでも、行くしかないでしょう。あちらにはニコラス公爵が……あたしに秋人おじさんの味を伝えるためだけにずっと守り続けたお店なんだよ?
今見捨てたら絶対後悔するし、それに……
あたしはディアン帝国バルド殿下の妃になる身。
自分がかわいいからって逃げたり隠れたりして、忠実な臣下を見捨てるようじゃその資格はないと思う。
水瀬の巫女ということを抜きにしても、あたしはニコラス公爵と秋人おじさんの店を守りたい。ただそれだけだよ」


あたしはレヤーを睨み付けるように視線に力を込めた。彼は黙ってあたしを見つめてたけれど、フウッと息を吐いて「わかりました」と答える。かなり不本意らしく、渋々といった様子で。


「おそらく今から向かうカレー屋は相当危険な状態です。今までは結界がありましたから【闇】の活動も制限されていましたが、結界が揺らぎつつある今はどのような事態に遭遇するかわかりません。一刻を争う事態ですが、準備は万全にしてから向かうべきでしょう」


レヤーの話はもっともだ。セイレム王国の時だって、その場で出来る限りの準備をして駆けつけたのに、あんな悲劇に繋がったんだ。戦いがあるなら準備はいくらしても足りないことはない。


「そうだ。まず、バルドに今の状態を報せるべきだよね」

「それならば既に私がお知らせしました。返答はまだですが、バルド殿下も何かしら動かれているはずです」


レヤーがいともあっさりそう告げるから、拍子抜け。何でも魔術で見えない伝書鳩を飛ばしたらしい。これは闇の者には感知できないものだとか。


「ひとまず、ここから出ましょう。ぐずぐずしていては敵を集めるばかりです」


< 760 / 877 >

この作品をシェア

pagetop