異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
鏡は動きつつある古代兵器を見つめるひとつの姿を映す。真紅のフードすっぽりと被ったその人の顔は見えない。体を覆うローブのゆったりとしたシルエットのせいか、身長や体格なんかがわかりづらくて、男女の区別も難しかった。
けど……あたしには感じる。鏡が示してくれたこの人は、おそらく今回の件の要となる人物。
古代兵器はカレー屋の地下に封じ込められていたから、おそらくこの人もその近くにいるはず。なら、あたしがすべきことはたった1つだ。
「レヤー、カレー屋に飛んで」
あたしがそう頼むと、レヤーはわかりましたと頷きつつ心配そうに訊いてきた。
「私は構いませんが、お城はどうなさいますか?」
彼がちらっと赤い霧に包まれたスマガラ城を見遣る。このまま放置していくのが心苦しいのはあたしも同感だけど、だからといってここに残っても出来ることはたかが知れてる。
それよりも原因を元から断ちにいかないと、事態は悪化するばかりだ。 それが出来るのはおそらく水瀬の巫女のあたしだけ。だから、どんなに危険でも無茶でもやるしかない。
「あなたの言いたいことはわかるよ。あたしだって本音はバルドを捜して助けられたら……って思う。怖いし、不安だし。
だけど、ぐずぐずしてる暇はない。バルドは死なないって約束してくれたから、あたしは彼を信じる。
それに……皇帝陛下やアスカ妃がそんなに弱い人とは思えないから、ここは彼らに任せるのが一番だと思う。
あたしたちは、今できることを精一杯やる。それだけだよ」