異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
自分の意識がゆっくりと広がると同時に、自我の境界が曖昧になって自分が自分で無くなりそうな怖さを覚えた。
それは、例えるならば一滴の水が海に落ち溶け込むのに似てる。あっという間に巨大なものに同化して、己を守る境界が消え何もかも曖昧になっていく。自分がどこにいるのか、自分がなんなのか解らなくなりそうな。
(ダメだ……しっかり自分を保たないと)
猛烈な嵐の中で吹き飛ばされそうな木の葉に似て、今にもかき消える恐怖で汗が噴き出す。体が冷えてガクガクと体が震えるのも、どこか他人事のように感じる。
今の自分から感覚や感情が切り離されつつあることにぼんやりした危機感はあっても、大して気にも留めなかった。
(停める……あの古代兵器を……あれは哀しみの象徴。人の業を知らしめるための。二度と目覚めさせてはならない)
もうひとりいた誰かが、あたし――わたしに語りかけてきた。広がる意識に触れたそのひとは、男性だったのか女性だったのか。年齢すら判別しづらい声音で。
けれども、ふわりとわたしにあたたかい風をくれた。その風は、人が人でいられるなにか――。
《眠れ》
わたしは、【龍】に語りかけた。
《眠れ、【龍】よ。そなたは起きるべきではない。代わりに幸福な夢を与えよう――永久にしあわせな夢を》
《しあわせな夢――確かに約せるか》
腹の底に響く、重々しい声がわたしのなかに。いえ、ここを満たす空間すべてに響く。
《――約束しよう。わたしはそなたに夢を見せる。代わりにそなたは二度と目覚めてはならぬ》