異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



彼女は、彼の死に慟哭した。


たった一つの命を奪ったことで復讐の鬼から目覚め、本来の心優しい女性へと戻ったのだ。


――何てこと。何てことを!


大量に配備された人工知能搭載の可動型兵器【龍】により、一晩で敵国の民は全て倒れ、国土は完膚なきまでに破壊しつくされていた。


一つの国が滅びた――私が滅ぼした!


そして、滅びた国からたった一つの報復として悪魔の兵器が使用され、彼女の国の首都もまた消滅していたのだ。これによりまた数千万の命が奪われていた。


――報復を。その国出身の民を狩るのだ。


積もる恨みや憎しみはいくら血や命で購おうが、所詮消えることはない。怨恨は世代を越えて積もるばかりで晴れはしなかった。


終わらない、報復の――負の連鎖。


なぜ、その国に生きただけで命を奪われねばならない?


なぜ、生きているだけで敵と罵られねばならないのか。そこに生まれただけで罪と言うのか。ならば人は生まれた時に罪人という理由で命を奪うことが許されるのか。生きることすら許されないならば、存在自体が罪ならば、死ぬことしか許されないのか。


かつての自分と同じ慟哭が、嘆きが、世界中のあちこちで繰り広げられていた。


それはまた、【龍】を造った女性の罪でもあった。


――私はただ、奪われた命の復讐をしたかっただけなのに。


生来心優しく慈悲深かった女性は悩み苦しみ、長い間かけて一つのプログラムを完成させた。


【龍】――が守護神となるプログラムを。


【龍】が人を殺戮の対象と見なすのではなく、人を護るための存在となるために。


そのプログラムを極秘にインストールすることに成功した代わりに、彼女は命を落としたけれども。とても安らかな笑顔であったという。


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