異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
“戦いやいさかいのない安らかなる世界”――女性の最期の、そして一番の望みだった。
人工知能を搭載し思考を得た【龍】は、自ら身体を造り換え組み替えながら、進化していった。より強く、より大きな力を手にするために。
“人びとに安寧を”。
【龍】の存在目的はただ一つ。
人びとに安寧をもたらすために、争いや戦いやいさかいを撲滅すること。
そのため、争いを繰り返す国家ふたつを滅ぼすことも日常茶飯事で。【龍】は次第に恐れられ、駆逐対象として激しい狩りに遭うが。絶えず進化する【龍】にもはや敵うものはなかった。
やがて、数百年が経ちその惑星系の太陽が終末を迎えようとしつつある時。ようやく人びとは争いを止めたかに見えた。
しかし――宇宙船で脱出した人びとは全てではなく、多くの人間が死にゆく惑星に残された。絶望感から再び世界中が荒れて混沌と化す。
【龍】は何度も警告した。生き残るために努力を放棄するなと。たくさんの命が生きることは女性の望みだったから。
けれども、人びとの争いは泥沼化し容赦ない殺戮が繰り広げられる。明日が見えない暗い世界に希望を見出だせない人間は、他者から奪い奪われる世界を造り上げた。
力を合わせ生き残るべきだったのに――
もうそこまで太陽は迫り干上がった大地に残る人びとは、尚も争いをやめない。このまま醜悪な死を迎えるよりは――と。
【龍】は、苦痛のない一瞬の“死”により、人びとを醜い世界より解放し安寧をもたらした。
あのまま焼かれ苦痛にのたうち回り絶望のうち命を落とすよりは、と。慈悲の感情で人類を救ったのだ。
そして……
【龍】はたった2人の生き残りを体内に載せ惑星を脱出――この違う惑星へとたどり着いたのだった。