異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「あまり無理はするな」
バルドはそれだけ言うと、あたしの頭を抱えて抱き寄せてくれる。お腹に負担を掛けないように気を遣ってるんだな、って微かに笑って。あたしはバルドの腕の中に収まった。
ようやく、この中に帰って来れた……落ち着いたんだ。それを感じて、涙が出る位にホッとできた。
「……怖かった」
「ああ」
「あたしがあたしじゃなくなるみたいで。ちっぽけな人間なのに……あんな大それた力を使って良いのかな? いくら巫女だとしても……なんか嫌だ。あのまま力を使い続けてたら……いつか自分が無くなりそうで怖い。バルド……あたし……どうしよう。自分を保てる自信なんてないよ」
あの、力を振るった時の不可思議な感覚。自分が自分と言える意識や意思や感情や感覚すべてが曖昧になって、すべてが大きな流れに溶け込み消え去ってしまいそうな恐怖。
あれは、体感しないとわからない。自分でコントロール出来るものではなくて、すべてが強制的に引っ張られて広がっていく様な。そんな強さに抗える術はない。嫌だと自分の意思で一生懸命抗おうとしても、まったくの無駄だった。
震えながらバルドの胸元をギュッと握りしめる。ただただ、彼にしがみつくように抱きつくしかない。
「……恐怖を感じて当然だろう。おまえの力は神に限りなく近い。人の身でそれを振るうならばリスクもある」
だが、とバルドはあたしの顎に指を当てて顔を上向かせられた。
「恐れなくともいい。少なくとも、おまえにはオレがいる」