異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
《そうじゃな。バルドの存在は心強かろうて》
唐突にヒスイの顔が見えたけど、もはや驚きませんって。既にあたしはバルドの腕から離れてた。ヒスイに観察されながらいちゃいちゃする趣味はありません。
《なんじゃ、驚かぬのか? つまらぬのう》
あたしの反応が薄いからか、ヒスイはそんなことをのたまうけど。やっぱり今までいきなり出てきたのはわざとだった訳ね……と思わず半目になった。
「おあいにくさま。あんたの出現が事前に判るようになったから」
《そのようじゃな。今までより遥かに大きな力を感じる。水瀬の巫女として覚醒したようじゃ》
ヒスイは半透明でふよふよ浮いたまま、気まぐれに辺りを漂っている。
《こうなれば、物質的な意味でそなたを傷つけるは不可能となった。どのような毒や薬や劇物でも同じこと……物質。つまりこの世界を構成する元素では、そなたを傷つけたり殺めるのは無理と言うことじゃ》
「ほ、ほんと? それって無敵になったってことじゃん」
あたしが思わずガッツポーズを取ると、バルドが冷静なひと言をくれた。
「だが、目に見えぬ攻撃に関してはどうなのだ? 未だに十分とは思えん」
《そうじゃな。バルドの言う通り、まだ精神的に未熟じゃからのう。全てを防ぎきれるかどうかはな……》
何だかヒスイが残念な子を見るような目を向けるから、ムカつくんですが。
「ヒスイ……一度殴っていい?」
《乱暴で粗忽な猿に、わらわの言の葉を理解せよとは難しい話ではあったか》
ヒスイは扇を広げてますます気の毒な目を向けるから、髪の毛が逆立ちそうなほど腹が立った。