異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「えっ……え、そうだったの!?」

「はい。もともとはセイレスティア王国のみならず、このラグーン大陸全体が干ばつによって危機的な食糧難に見舞われました。そこで、セイレスティア王国のティオンバルト王太子殿下が、伝説の言霊を操る姫として喚ばれたのが今の妃殿下――ユズ様でらっしゃいます。
事実、ユズ様はその素晴らしいお力で、セイレスティア王国のみならず、大陸全体の食糧難を改善なさいました。
以前と比べれば、飢えに苦しむ人びとはかなり減ったんです」

「へ……へえ……そうなんだ。そりゃすごい、ね」

「はい! 本当に不思議ですけど、ユズ様のお力は素晴らしいものですわ。少し祈っただけで作物はたわわに実り、病を癒すものができるんです」


熱く語られるたびに、胸に言い知れない重石が載っていく。キキさんが話す言葉も、本当はセイレスティア語らしいけど。ユズさんの言霊の力が宿った腕輪をしてるから、翻訳の必要なく異なる言語を話す相手と何の苦もなく意志疎通できるって。


どこまで素晴らしいか、どんなステキな人か。わかったからやめて! と耳を塞いで席を立ちたくなる。


ユズってひとは、何の苦もなく力を使える。なのにあたしは、どんな力があるのかさえ解ってない。人の役に立つどころか面倒ばかりかけて……。


それに。


聞いて、しまった。


“去年はディアン帝国もユズ様を召喚しましたが、ユズ様はセイレスティア王国へいらっしゃいました”――と。


セリス皇子も言ってた、去年失敗した召喚というのはそういうことだった。


つまりあたしは……


ユズって人の、代用品。


ううん、代用品にすらなってない。


――あたしは。


一体、何の為に喚ばれたの?


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