異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「ハルバード公爵」
「はい」
アスカ妃ではなく皇帝陛下がハルバード公爵に声を掛けた。公爵は一段下に控えていたけれど、皇帝陛下へ軽く頭を下げ膝をついた。
「あの時、そちは言うたな。“あの猛獣を檻へ囲います”……と。どうやら失敗に終わったようだな」
「……己の力不足には恥じ入っております。ですから、わたくしはあらゆる協力を惜しみませぬ。ハルバード公爵として、力を尽くしてみせましょう」
え、とあたしは思わず2人を見比べた。だって……今までの話の流れから言えば、ハルバード公爵は彼女を愛してないということになる。
なら、バルドは?
彼女が初恋で苦しんでいたバルドは。彼女が手に入れられなくて、あれだけ切ない顔をしていたのに。それなのに……。
「……どういうことですか? あなたは……彼女を愛して妻にしたんではないんですか?」
あたしは、思わずハルバード公爵に詰問していた。皇帝陛下の御前で許可なく発言したことに咎める声はしたけど、皇帝陛下が諌めて下さった。
「だから、なんだと言うのですか?」
ハルバード公爵は完全に醒めた目であたしを見た。
「貴族の間では当たり前にある政略結婚の1つですよ。利害あってする1つの手段に過ぎません。その目的が何であれ、わたくしは夫として臣下として義務は果たしてきました」
「義務って……なら、あなたは」
ごくり、と喉を鳴らす。今まで具体的に出なかった名前をあたしは敢えて口にした。
「あなたは、アイカさんを少しも好きにはならなかったのですか? 子どもまで生まれたのに」