異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「……皇后陛下に恋人が?」

「カミワーダ家の現当主、と言えばお分かりになりますか?」
「えっ」


カミワーダ家……その名前を聞いて、驚いたなんてものじゃなかった。


だって、その家名は。


「そうじゃ、セオドアの妻であるアイカの実家じゃ」


アスカ妃がハルバード公爵の後を継いで、予想と違わない真実を告げた。


アイカさんは確かハルバード公爵やバルドと同い年の幼なじみだったはず。皇后陛下が生んだライネス皇子はバルドより1つ2つ年下。


そういえば、不思議だった。大商人で富豪とはいえ、その娘さんが公爵や皇族と近づける機会なんて滅多にない。ましてや、結婚までいくなんて相当珍しい。


そして、セイレム王国からディアン帝国に帰る道すがら、馬車の中でアイカさんとお話した時。彼女は息子やお父様のお話はされたけど。お母様については遂に一度も口にしなかった。


夫についてさえ、“わがままをお許し下さる優しい人ですの”と言ってたのに。


あたしがお母さんについて話して水を向けてみても、困ったように微笑むだけで頑なに口を閉ざして。


そういえば、アイカさんはアスカ妃にずいぶんなついていた、と帝都での再会を思い出す。


全面的に信頼しじゃれつき甘える姿は、まるで実の母娘のようだった。実の息子を差し置いても彼女を独り占めする姿は、度を越していたかもしれない。


もしかすると、アイカさんは会えない母親の代わりをアスカ妃に求めていたんじゃないか。そんな気がした。


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