異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
あたしは唖然とするしかなかった。
ディアン帝国で唯一の議会である評議会。君主制を採用している帝国ではあるけれど、建国当初ならいざ知らず、今は皇帝を監視する評議会が設置されて絶対的な権力を行使することができなくなった。
評議会は各地区から選出された代表で構成されている、独立した機関。緊急時以外の重要な案件は原則評議会の承認を得る必要がある。
国民の代表とはいえ、ほとんどは貴族や豪族等の有力者で占められている。それだから、有力な貴族の影響力がそのまま議決の結果にも及ぶ。
だからこそ、皇后陛下が発案した隣国との国境戦争が承認され通った訳だ。評議長なら根回しも影響力も他の議員より段違いだから。
評議会は皇帝陛下と権力を二分する存在と言っていい。いや、むしろ影響力は上かも。いくら皇帝陛下がごり押ししようとしても、評議会が承認しなければ実行されないのだから。
アイカさんの伯父で皇后陛下の兄。そんな彼が、妹や姪の不利になることを承認するはずもなく。議案をそのまま諮りにかけることなく握り潰すこともあっただろう。
「評議会を敵に回せば国民の反発を招き、国を二分する恐れがあった……ということですね」
「理解が早くて助かるなあ~そうそう。評議長が厄介なやつでね。今までやつのために何もできなかった……」
「だが、正統な水瀬の巫女が現れたのじゃ」
皇帝陛下の言葉を継いだアスカ妃がニヤリと笑う。
「初代皇帝の勅命ではな、こうある。“水瀬の巫女が現れたならば全てその言の葉に従え”――とな。誰にも覆せぬ絶対的な遺言じゃ」