異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「えっ」
ライネス皇子の言葉は理解を超えていた。
まさに寝耳に水、青天の霹靂。皇后陛下の一人息子であり、バルドと皇太子の地位を争う最大のライバル。立場は政敵と言ってもいいのに、どうしてその彼が母や伯父に背くんだろう。
以前あたしに日本への帰還を問いかけてきたのも意外だったけど。
ライネス皇子の顔をじっと観察する。彼はこちらを窺うような様子などない。むしろ言いたいことを言った、と何の裏表もない様が見てとれた。
「……あなたは決着を着けたいとおっしゃる。けれど、わたしたちに協力するならば、あなたの大切な人に背く事になりかねない。そのお覚悟はおありなのですか?」
「無論、承知の上でのことだ」
ライネス皇子はしっかりと頷いて、先ほどとは違う真剣な目付きに変えた。
「母上の立后からしておかしいと思っていた。セイレスティア王国の王女という高貴な女性やアスカ妃という寵愛する妃がおられるのに、貴族とはいえ大した家柄でも能力もない母上が……と。今では評議長の伯父のバックアップで半ば強引に立后したのだ、というのは知ってる」
「セイレスティア王国の王女が……お妃にいらしたと?」
今までそんな話は聞かなかった。妃は皇后陛下とアスカ妃の他に数人というのは知ってるけど。まさか他国の王女が輿入れしていたなんて。それこそ正妃……皇后に相応しいんじゃないかと思ったのだけど。
「ライベルトの母上だ。大きな戦の後、友好の印としての政略結婚だった。だが、伯父と母の謀略で……辺境の離宮に閉じ込められたんだ。懐妊しただけでな」