異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「お前との何をだ? わたしはおまえの母君と話すことなどない」
ロゼッタさんは軽くライネス皇子を睨みながら、あたしを庇うように彼の前に立ちはだかった。
「おまえ、悪いやつの息子だ。おまえをすぐには信用できない」
「それでいい。巫女を守る以上は猜疑心を簡単には捨てるな。どんなに善良そうな見かけの相手だろうと、大概腹の中は真っ黒なのが政争の定石。単純なお人好しほど利用し尽くされ、ボロボロになって使い捨てされるだけだ」
ライネス皇子は自分をも信用するな、と言っているようだった。協力すると申し出ているし、事実情報を提供してくれている。そんな彼を信用しないというのは難しいけど、何もかも完璧に味方という訳ではないのかもしれない。
「つまり……あなたはこちらを利用して、お母様の悪事を止めたいということですか?」
「さすがに巫女。頭の回転が早いな」
腕を組んだライネス皇子は満足そうに頷いた。
「俺が皇后の息子であり、評議長の甥というのは動かしがたい事実だ。俺を将来皇帝とさせるのはあの2人の中では決定事項。いつまでも俺が言いなりのガキである3歳児のつもりでいるからムカつくがな」
「でも、あなたが有能なのは誰もが認めているでしょう。バルドも評価してるし、帝都を離れていた時もあなたがいるから大丈夫って言ってたくらいだし。だから、バルドよりむしろ皇太子に近いんじゃ」
ライネス皇子の自虐的な笑顔に、あたしは思わず反論していた。
必要性があったとはいえ何ヶ月も帝都を離れて旅をしていたバルドより、帝都でずっと政務に携わっていた彼の方が相応しく思える。