異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「変わってる巫女だ。夫となる皇子が皇太子にならずともよいのか? 将来皇帝となった方が権力を持てるのだぞ。バルド兄上が他に妃を持たねば、兄上が帝位に就いたらおまえが皇后になれる。女性では最高の地位を約束されるが」
面白がるようなライネス皇子の口調に、あたしはゆっくりと首を横に振った。
「バルドが頑張っているのは知ってるし、将来帝位を望んでるとはうっすら感じてる。でも……あたしは……バルドが無事でいてくれたらいい。無事に生きてるだけで」
今までの激しい戦いから言えば、無事に生き抜いてこられたのは奇跡に近い。奴らとの対決はまさに命がけ。それを思えば、あたしは多くを望まない。ただ無事に生きていてくれれば……そう思う。
だけど。
でも、とあたしは一度切った言葉を紡いだ。
「もしもバルドが皇太子に……皇帝になりたいと本気で望むなら、あたしはその手助けをしたい。だから、そうなればあなたとはライバルになる。あたし自身は皇后の地位だとかどうでもいいけど。バルドの夢を実現したい。ただそれだけだから」
そして、あたしはもうひとつ大切なことをみんなに伝えた。
「だけど、もしもバルドが間違っていたり誤りを正そうとしなければ。あたしが直させる。水瀬の巫女だったら、できると思うから。大切な人だから道を誤って欲しくはないし。彼なら間違うことはないと信じてるけど。人間である以上わからないから……。
だから、あたしが彼のストッパーになりたい」