異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「だから、言ったろ。綺麗事は何の役にも立たないと」
突然、その声は聞こえてきた。
冷たくて無機質な――何の感情も孕まない。首筋がひんやりとするような声を放ったのは、一人の男性。
ライさんがかけた一切の音を遮断する魔法をいとも容易くくぐり抜け、こちらの音を聞くだけでなく向こうからの声も通してくる。
黒いマントをざっくりと体に巻き付け、やや長い黒髪に鋭い瞳は猛禽類のような黄金色。その瞳に射抜かれた瞬間、体が動かなくなった。
ロゼッタさんがサッとあたしの前に出て庇ってくれたら、緊張が解けて動けたけど。本能的な、恐怖。そんなのを初めて感じた。
「はじめから目的を話せば、よけいな考えなど持たない。アンタを利用したいってな――まどろっこしい。セイレスティアに連れてくのも、保護という名目で。結局は愛しい王太子妃殿下の為に、だろ? なあ――ライベルト? ディアン帝国第3皇子」
「えっ!? ライベルトさんは……帝国の皇子だったんですか?」
キキさんは全く聞かされていなかったのか、驚いて目を見開いていた。というか……セイレスティア王国の人間が、ディアン帝国の皇子って?
ライベルト、と呼ばれた彼はスッと目を細める。そして、キキさんを庇うように背に回すと口を開いた。
「――そうかもしれませんが、あなたに言われたくありません、兄上」
兄? ディアン帝国第3皇子っていうライベルトさんの兄って……まさか。