異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
『あの、ミス·フレイル。お訊きしてもよろしいでしょうか?』
『何でございましょうか?』
ミス·フレイルには日本語ではなくこちらの言葉であるストラストス語で訊ねた。さすがに半年以上毎日話してるとある程度は身に付いてる。
ミス·フレイルからは前々から日本語ではなく、ストラストス語で話せと口を酸っぱくして言われてたし。皇族が集う公式な晩餐会では公用語が必須だろう。だから、“これからきちんと使います”という意思表示で、先んじてストラストス語を使って彼女に質問をしておく。案の定、ミス·フレイルのご機嫌は上向き加減。いつもの鉄面皮に見えるけど、何ヶ月も毎日四六時中顔を合わせれば些細な変化も解る。これだったら答えを引き出し易いかもと期待。
『後宮に“マリィ”とおっしゃる方はいらっしゃいますか?』
『マリィ……でございますか?』
ミス·フレイルは一瞬だけ眉を寄せる。皇族に一途に仕え続けて25年も経つ彼女なら、知らないことはほぼないと思うのだけど。本当に心当たりがないのか、記憶を探るように考え込んでいた。
『申し訳ございません。わたくしは後宮の妃殿下や皇女殿下に侍女や女官……下働きに至るまでの人物の情報は把握しておりますが、そのような名前の女性は存在しないと申せます』
ミス·フレイルはきっぱりはっきりと“マリィ”の存在を否定してきた。
(え……どういうこと? 確かにあの子はマリィって名乗ったのに。存在しないって)