異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「お……お母さん!?」
目の前にいた女性。彼女は……お母さんにそっくり……どころか瓜二つ。
違いは瞳が赤いことと、髪がライネス皇子と同じシルバーブロンドということ。身長も体格も……何より。顔が同じで、目元にあるほくろまで同じ。
ここまでそっくりで本人でないと言われたら……。
でも、お母さんは確かに日本で亡くなった。遺体は火葬されお墓に納骨だってされてる。何より、その死を看取ったのはあたし。だから、お母さん本人というのはあり得ない。
(そういえば、ライネス皇子は同じ血が流れてる身内だと言ってた。もしかしなくても、お母さんの血縁者)
ヒスイだって、言ってた。
“もう一人の巫女がいる”って。
もしかすると……
皇后陛下が、そのもう一人の“水瀬の巫女”。
あたしは頭の中で素早くそれだけの情報を分析すると、動揺を悟られまいと努めて微笑んで見せた。
『お優しいお言葉を賜りまして、ありがとうございます』
『ほほほ、その様に堅苦しくなさらないで。あなたとは血縁があるのですから、家族のように親しくしてくだされば嬉しいわ』
皇后陛下自らが、あたしとの血縁を認めた。こうして妃や有力な貴族の夫人がいる前で。
やられた、と思う。
立場上あたしはバルド側になる。つまりはライネス皇子のライバルの人間なのに、その母である皇后陛下と血縁があるということは。ライネス皇子や皇后陛下に滅多なことが出来なくなる、ストッパーをかけられたようなもの。
血縁者に非情なことをしてしまえば、赤の他人に対する時よりも更に厳しく非難され、人の感情を高ぶらせてしまう。
皇后陛下は今まで見せなかった姿と情報を使い、見事にこちらを出し抜いたわけだ。