異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
アイカさんはもと皇族の血筋でもあるハルバード公爵夫人であるから、身分上後宮での晩餐会に招かれるのは不自然じゃないけれど。未だに妃がいない独身の皇子にエスコートされて、というのは意味深でスキャンダルの元になりかねない。
第一、ハルバード公爵はバルドの幼なじみで学友。そんな彼の妻を伴うということは、バルド派への明らかな牽制。宮廷の勢力図に確実に楔を打ち込むことになる。
この晩餐会に招かれた顔ぶれを見れば、そうそうたる面子が揃ってる。女性とはいえこの国を動かす力のある身分も地位もある人たちばかりだ。
つまるところ、先ほどの皇后陛下の身内発言と言い、皇后派はあからさまにこちらの勢いを削ぎに掛かってきたらしい。
今のところは大人しく現実的な方法で駆け引きを挑んできてる。なら、あたしもそれに応じておかなくては。
『ご無沙汰しておりますわ、ハルバード公爵夫人どの。ご子息のご様子はいかがでしょうか?』
あたしは個人名ではなく、妻としての立場を忘れるなとの意味を込めて、アイカさんを公称で呼んだ。
子どもの話題を出したのもそうだけど、あなたはあくまでハルバード公爵の妻であり子どももいる母親。それを殊更強調して、羽目を外す振る舞いをたしなめた。
ここは外国ではなく母国。夫のいる身なら、大概にしてくれとの思いを込めて。
『これは、巫女様。お陰さまで長男は元気でいますわ』
アイカさんもこちらの意図に気付いたのか、慇懃無礼な態度で応じてきた。