異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



(やっぱりすべては皇后陛下と評議長の謀〈はかりごと〉が原因)


初めて顔合わせする人もいるから簡単に挨拶をして席に着く。ミス·フレイルのお陰で宮中の勢力図なんかの知識は頭に入っているし、晩餐会のマナーや作法に関しては何ヶ月かのセイレム滞在とお妃教育でほぼ完璧なはず。


バルドは皇帝陛下と共に、評議長の本拠地へと討伐隊として出発した。今まで時間を掛けて集めた証拠のお陰で罪が固まり、国家転覆を計った容疑で、ハルバード公爵指揮の皇帝直属正規軍が出たんだ。


私邸や別荘に執務室や荘園に領地……すべてに軍と警察が向かってる。それらは没収され、悉く調べられる。官位や身分も地位も全て剥奪の上、罪人となる。これで、貴族どころか人としても評議長は終わりだろう。


これだけ大事ならば皇后陛下にも情報が入っているはず。

最大の後ろ楯である兄が逮捕され罪人になるのに、なぜ彼女はこれほど落ち着いていられるのだろう? 焦りどころか感情の揺らめきが微塵も感じられない。


このままだと連座されご自分の立場も危うくなるだけというのに。一体何を考えてらっしゃるのか。


(あれ……そういえばこの場所って)


晩餐会の会場の位置を確認したあたしが周りを見渡した時だった。


『今宵はよい月夜ですこと。このような美しい宵に、皆様と共に過ごせることを嬉しく思いますわ』


果実酒のグラスを掲げた皇后陛下は、とても上機嫌。鼻歌が出てもおかしくないほど。いくらなんでもないとは思うけど。


『今宵は思い出深い最高の夜にしましょうね。わたくしの夢が叶うのですもの』


そう、彼女が微笑んだ瞬間――


空気が震えた。


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