異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



あたしの周囲を、床から生えた無数の刃が囲みこんだ。人為的なものじゃなく、【闇】の力を感じる真っ黒な宝玉の刃だ。


おそらく、普通の人間ならば触るどころか近づくだけで即死に繋がりかねない。それほどの障気と毒を撒き散らしてた。


ひ、と誰かが短い悲鳴を上げる。おそらく妃かその侍女の一人だろう。アイカさんはもちろん、アスカ妃やあたしだと驚く程のことでもない。


皇后陛下はおそらく、この檻にあたしを閉じ込める意図はないだろう。なら遠慮なく、とあたしは息を吐いた。


パキン、と宝玉の檻が割れると粉々に砕け散ったそれは銀色の光となって立ち上っていく。さらさらと輝きながら、逆にこの場の障気と毒を浄化していった。


『……何を企んでおるかは知らぬが、あまり巫女を虚仮にせぬほうが良いぞ?』


アスカ妃は明らかに挑発的な態度で皇后陛下を睨み付ける。皇后陛下はそんな彼女に微笑みを返した。


『そのようですわね。代々の巫女の中で最も強い力を持つ水瀬の巫女』


皇后陛下があたしの素性を明かすと、知らなかった人たちからどよめきが広がった。


それはそうだ。ヒスイが偽巫女として表に出ていたのだし、あたしはあくまで侍女の立ち位置にいた。バルドの偽の婚約者ではあったけど、後ろ楯や出自は不明瞭で謎だったに違いない。


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