異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
《和、願え。今なら間に合う》
ヒスイがあたしの頭にだけ呼びかける。それを聞いて微かに頷くと、願った。
(お願い……赤ちゃんを助けて。そして守って)
あたしが必死に祈ると、翡翠の勾玉がそれに応じるようにほんのりと輝く。そして……お腹に熱が籠ったように熱く感じるけれど、それは水瀬の血が為せるものだと理解する。
存在そのものが消えかけていた命は……繋ぎ止めた後、無事に本来の姿を取り戻し更に力強い守護の力が働く。私と同じく物質的に危害は加えられないように……と。
そして危害を加える悪意ある存在には、お返しでこちらからとある攻撃を加えるようにした。
胎内からの力強い鼓動を聞いた時。
よかった……と涙が出そうになった。
(もう……同情の余地はないのかもしれない)
何の罪もない、まだ生まれてすらいない赤ちゃんを傷つけ命を奪おうとした。明らかに悪意ある攻撃だ。
「まあ……和さん、大丈夫ですの?」
周りを取り囲んでいた靄を晴らしたあたしは、ゆっくりと立ち上がりあたしを心配するフリをする皇后を見た。
わざとらしいパフォーマンス。だけど、バカらしい猿芝居をこれ以上続けるつもりはなかった。
「ご心配どうも……けど、さすがに今のはやり過ぎではありませんか? 皇后陛下」
「あら……わたくしが原因とでもおっしゃりたいのですか?」
さも心外だ、と言わんばかりに扇で口元を隠すけど。しらじらしい。
あたしは精一杯の侮蔑を込めて言ってやった。
「ええ……危うく殺されるところでしたからね。まだ、生まれてすら居ない命が」