異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「もう、お止めください。母上」
今の今まで沈黙をしていたライネス皇子が、エスコートしていたアイカさんから離れて母へ歩み寄る。
「あなたや叔父が俺を皇太子に……と望んでいるのは知っている。だが……俺は皇太子や皇位など一切望まない」
ライネス皇子の発言は、先ほどの衝撃よりもショッキングなものだった。
皇后や評議長がライネス皇子を次期皇帝に、と望んでいるのは周知の事実。そのために彼らは政敵を排除し容赦なく切り捨てを行なってきたんだから。
それらはすべて、ライネス皇子が無事に即位するため。彼が皇帝となり、更に国政を牛耳って思い通りに国を動かそうとしていた。
けれども……
ライネス皇子は今はっきりと、皇太子争いから身を引くと宣言した。
しかも、後宮にいるすべての人たちが見守る中で。
非公式なものとはいえ、後宮で開催された皇后主催の晩餐会。5人の妃の他にもたくさんの人たちが同席、または仕える主人の傍らにいる。実に百人はくだらない人たちが耳にしたんだ。ライネス皇子の発言を“無かったこと”にするには、あまりにリスクが大きい。
ライネス皇子は今の今まで皇位継承権に関しては何も言及をしていなかった。だからこそ、今の発言はより一層の重みを持つ。
なのに……
皇后は何ら動揺する事なく、息子へ目を向けて微笑んだ。まるで、やんちゃな幼子がした悪戯を仕方ないとでも笑うように。